第一章   作品名『学園ヒーローの恋人は本の虫?』

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《とにかく、もう一度設定を見直してみたらどうですか》 《やっぱりそうですかね》 《まだふたりが出会っていないところで、執筆が止まっているのであれば、どこかに無理があるのではありませんか》  痛いところを突かれて、翠は一瞬返事を返すことができなかった。無理がある、その通りだ。  教室でぽつんと本を読んでいる主人公。図書室に向かう主人公。読みたい本を見つけて、ちょっとだけ嬉しそうに微笑む主人公。その本を借りて、司書の先生に声を掛けられて返事をする主人公。そして、その本を手に教室に戻る主人公。戻ってきた主人公に声を掛ける親友。  そこまでは書けた。そこまでは。問題は、その後だ。 《彼氏が出てこない、ヒーローどーこー?》 《それじゃ彼氏は出てこないでしょうねえ。だから、今夜はゆっくり休んでください。明日になれば、なにか思いつくかもしれません。それに、明日も仕事はあります》 《そ、そうですよね。すみません、課長。ありがとうございました。おやすみなさい》 《はい、おやすみなさい》  翠は携帯を充電ケーブルに繋ぐと、ため息をついた。  仕事は休めない、休まないと決めた。でも、コンテストの締め切りも迫っている。  このまま無理して小説を先に進めてもいいものかどうか。諦めきれずに、ああでもないこうでもないと悩み、パソコンに向かって二ページ書き進めたところで、やはり気に入らず新たに打った文章をすべて削除した。  結局ベッドに入ったのは、日付がとうに変わった午前三時過ぎ。寝不足の状態で出勤し、今日の窓口対応はどうにかできたものの、昼食後の眠気は半端なく、パソコン前で瞼が何度も閉じそうになったというわけだ。  明日はどうしても眠そうな様子を見せられない。 「でも、締め切りが……あー、もう! もうちょっと! もうちょっとだけ!」  翠は諦めきれず、再びパソコンに向き合いキーボードの上に指を置いた。書き出そうとするが、すぐに止まる。
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