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《とにかく、もう一度設定を見直してみたらどうですか》
《やっぱりそうですかね》
《まだふたりが出会っていないところで、執筆が止まっているのであれば、どこかに無理があるのではありませんか》
痛いところを突かれて、翠は一瞬返事を返すことができなかった。無理がある、その通りだ。
教室でぽつんと本を読んでいる主人公。図書室に向かう主人公。読みたい本を見つけて、ちょっとだけ嬉しそうに微笑む主人公。その本を借りて、司書の先生に声を掛けられて返事をする主人公。そして、その本を手に教室に戻る主人公。戻ってきた主人公に声を掛ける親友。
そこまでは書けた。そこまでは。問題は、その後だ。
《彼氏が出てこない、ヒーローどーこー?》
《それじゃ彼氏は出てこないでしょうねえ。だから、今夜はゆっくり休んでください。明日になれば、なにか思いつくかもしれません。それに、明日も仕事はあります》
《そ、そうですよね。すみません、課長。ありがとうございました。おやすみなさい》
《はい、おやすみなさい》
翠は携帯を充電ケーブルに繋ぐと、ため息をついた。
仕事は休めない、休まないと決めた。でも、コンテストの締め切りも迫っている。
このまま無理して小説を先に進めてもいいものかどうか。諦めきれずに、ああでもないこうでもないと悩み、パソコンに向かって二ページ書き進めたところで、やはり気に入らず新たに打った文章をすべて削除した。
結局ベッドに入ったのは、日付がとうに変わった午前三時過ぎ。寝不足の状態で出勤し、今日の窓口対応はどうにかできたものの、昼食後の眠気は半端なく、パソコン前で瞼が何度も閉じそうになったというわけだ。
明日はどうしても眠そうな様子を見せられない。
「でも、締め切りが……あー、もう! もうちょっと! もうちょっとだけ!」
翠は諦めきれず、再びパソコンに向き合いキーボードの上に指を置いた。書き出そうとするが、すぐに止まる。
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