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退屈な授業。いつも親友と向かい合って食べるお弁当。本を読んで過ごす昼休み。ついうとうとしてしまう午後のけだるい時間。
放課後、級友たちがばたばたと教室から部活へと出ていく中、帰宅するためにゆっくり教室をあとにする主人公。
「だめだ! ヒーロー出てこない! 今頃ヒーロー、部活に行ってるよ!」
翠は手をキーボードから離し、髪の毛を掻きむしった。
(きゃあきゃあ騒ぐ女の子たちの群れの後ろを、主人公が通り過ぎて……。サッカー部が練習をしているグラウンドの横を通る設定にしても、接点がない。このままだと、主人公が帰っちゃう!)
「ヒーロー! そうだ、ボール! ミスしてボールが主人公の方に……って、主人公に当たる前に、ヒーローを見に来ている子たちに当たる!」
どうやっても上手くいかない。翠は、もう寝てしまおうかなと、椅子の背もたれにぐったりともたれかかり、腕をだらりと下げた。
(何やってんだろ、私……。まだ、素人も素人、一度も賞を取ったこともないどころか佳作にも引っかからない、趣味の域を出ない才能もないど素人なのに、王道で勝負とか何様……)
一文字も先に進めず、思考はどんどんネガティブな方向へ落ち込んでいく。
今夜はもうだめだ、課長の言うとおり本当に寝た方がいいかもと、翠は立ち上がりかけ、うっかり机上のワイヤレスマウスを落とした。しまったと机の下に潜り込んで、マウスを拾う。
そのまま体を起こそうとした翠は、したたかに頭を机に打ち付ける羽目になった。
バコン!
頭に衝撃が走る。
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