プロローグ

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「ゲームの世界みたいに、モンスターを倒してお金を手にすることができたらいいのに。今度、異世界ファンタジー物を書くときは、モンスターが倒れた瞬間に体が消えてお金や宝石に変化するっていうお手軽な設定にしようかな。いや、宝石だけの方がいいよね。倒されたモンスターは、石化ならぬ宝玉化する、それを持ち帰ってモンスター宝玉加工専門店に売ってその対価をもらう。ううん、それだけじゃなくって、その宝玉の一部を受け取ることができるってことにして、それを御守りにしたり自分の装飾品にしたりして……」  妄想し始めると、きりがない。それでもせっかくのアイディアなので一応忘れないように、机の上に広げたノートに書き留める。  しっかりプロットを書き込んであるページではなく、思いつくままのことをざっくり書き留めるページを開いて。いつか使うかもしれないアイディアをストックしておくことは大事だ。  今度こそ翠は食器を片付けると、出勤準備を始めた。  今日も外は晴れている。カーテンの隙間から、明るい日差しが差し込み、とても気持ちがいい。  着替え終えてカーテンを開けた翠は、目に飛び込む日の光に思わず目を細めて顔を顰めた。 「晴れたのは嬉しいけれど、寝不足の目には堪えるわ……辛い……」  平日カーテンを開くのは、朝の一瞬だけ。すぐに出かけるので、翠はもう一度カーテンで窓を覆って部屋を暗くした。  机の上の大事なノートを、鞄につっこむ。  さあ、今日も出勤、仕事をしてこよう。    東京都二十三区に隣接する小都市ふじき野市。 私鉄は通っているが、地下鉄はない。公共の交通機関は、主にバスだ。  翠の勤務するふじき野市役所は小豆色の五階建ての建物で、正面から向かって右側にバス停がある。  建てられた当初は「何故その色?」と多くの市民から言われた市役所も、築十年を超えた今となっては予想に反して汚れが目立たず、周囲から浮いた感じもしなくなった。  市役所の市民生活部には様々な書類申請の窓口があり、中でも市民に一番接する機会が多い市民生活課が、笛木(ふえき)翠の職場だった。
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