プロローグ

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 読書感想文を書いて夏休み明けに学校に提出したそれが、都の読書感想文コンクールに入賞してささやかな景品をもらったのは中学一年生の時。自分の書いたものが認められた。その喜びが読む方から書く方に興味をもったきっかけだった。  それ以来、お小遣いでノートを買っては、ちまちまと小説を書き溜めてきた。  最初は頭の中でキャラクターを想像して、情景描写も何もなく、セリフを並べただけの拙いもの。    そのうち、少しずつ地の文を加えるようになり、プロットなどというものも書き留めておくようになった。  彼女の青春時代と共に在ったノートは、大学を卒業してひとり暮らしをするようになった今も、ずっと手元においてある。  公務員試験に合格し、大学を卒業した翌月から市役所に勤め始めたのが五年前。  最初は不慣れな仕事に疲労困憊し、帰宅しても疲れですぐに寝てしまうことが多かった。  けれども、勤務を始めて一ヶ月、二ヶ月が過ぎ、徐々に仕事の内容と力の入れ具合のちょうどいいバランスが掴めてくると、しばらく休んでいた執筆作業への渇望が沸き上がってくる。  帰宅後にベッドに直行することも少なくなり、ネット上の小説投稿サイトを覗いて、自分も気軽にサイトにアップしてみようかなどと思ってしまったのだ。  アップすれば、ひとりでも多くの人に読んでもらいたい。読んでもらったら感想のコメントが欲しくなる。  読んでもらえる喜びは、読書感想文で賞をもらった時の嬉しさをはるかに上回った。  よし、小説家を目指そう!  そう翠が決意するのに、さほど時間はかからなかった。  それ以来、翠は時間を見つけては小説を書くようになった。平日は夜、土日は昼間に。  そして、昨日は新作に取り掛かり、一気に冒頭部分をパソコンで打っていて、眠るのが遅くなってしまった。  欠伸は、そのせいだ。
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