あの子の思い出

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「たぶんもうこれでタケシも忘れるだろう。おまえの義母(かあ)さんも一役買ってくれたことだし」 父親がひと息をついて言うのに、 「……最近、ちょっと認知症の()もあるみたいだからね。ちょうどよかったわよ」 母親は苦笑いを浮かべた。 「まぁな……もう誰も、あの子のことなんて覚えてないし。さて、話もついたからそろそろ寝るか」 言いながら、父親が枕元の電気を消す。 「そうよ、誰も覚えてないんだから」 真っ暗な中で、母親はひとり呟いて、 「あの子なんて、最初からいなかったのよ」 と、口にした……。 終
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