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……夜、布団の中で、
「ねぇあなた、あの子のこと気づかれなかったかしら?」
母親が話しかけて、
「ああ、気づかれなかったはずだ。何しろタケシもまだ3、4歳と幼かった頃だし、記憶も定かではないだろうから」
父親が答える。
「だけど急にまたあの子のことを言ってきたのにはビックリだったわよね。もうとっくに忘れてると思ってたのに」
「そうだな、忘れさせようと早いうちにアルバムからあの子の写真は全部抜いておいて、よかったよ」
「……本当に」と、母親が頷いて、
「タケシがあの子と遊んでいて、誤ってお寺のお堂の中に閉じ込めてしまって、気がついた時にはもう……とか、思い出してほしくないものね」
声をひそめて話した。
「ああ、あの子がいなくなってさんざん探し回った後で、タケシが泣きながら『お堂にいたずらで閉じ込めたら、開かなくなっちゃった』と言ってきた時には驚いたが、
見つかったあの子は、自分で入って鍵が壊れていたせいで出られなくなった末にということで、もうケリも付いているしな」
父親の言葉に、
「ええ、だから今さらあの子のことを思い出されたら困るのよ」
と、母親がさらに声をひそめた。
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