予備を入れて三個、いや――、やっぱり四個は必要かな?

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 待ち合わせの場所であるいつもの公園へと、彼は約束の時間よりも、やや遅れてやって来た。 見た目通り、真面目な彼にしては、めずらしいことだった。  しかし彼は、遅くなったことを謝るのもそこそこに、ここに来るまでに乗った電車での出来事をボクに語り始めた。 「――小学校二、三年生くらいの男の子かな?鼻血を押さえながら電車に乗り込んできたんだ。ケガをしているように見えなかったから、のぼせちゃったみたいだ。今日も本当に、暑かったし」 「・・・・・・」  確かに彼の言う通りだったので、ボクは黙っていた。 殺人的な太陽が沈み、ようやく暗くなったというのに、全然涼しくならない。 直射日光がなくなっただけマシ。というレベルだった。  彼はなおも、話し続ける。 「それで、ティッシュで鼻を押さえていたんだけど、お母さんだろうなぁ?ティッシュ、それで最後なんだから大事に使いなさい!って、テンパっちゃってて、かわいそうだったなぁ――」  彼がかわいそうだと思ったのは、鼻血を出した子供なのか、それとも母親なのか、ボクには分からなかった。 だから、ただただ黙って聞いていた。 ――でも多分、子供の方なのだろう。  彼は目に見えて、済まなそうな顔をした。 「だから、全部あげちゃったんだよね。そのお母さんに。予備に持っていたポケットティッシュ、三個とも」 「・・・・・・」  言い終えると一転、彼はニッコリと笑った。 その母親にティッシュを手渡した時も、そんな顔をしていたんだろうと、ボクは想像する。  嫌う人などいないような、人好きがするそのものの顔――。 目に浮かぶようだった。 「ゴメンね」 「?」  今度は何で謝られたか、首をかしげるボクへと彼は続ける。 その、人好きがする笑顔のままで。 「だから、今日は口でするね。でも、全部飲んで舐めて、キレイにしてあげるから。ティッシュないけど、それで許してね?」 「・・・・・・」  ボクはけして、屋外でするのが好きなワケではない。 ただ、彼のこの笑顔を見るとけしてイヤだ!とは言えなくなる――。 よく響く、明るい声で言われたことは全て、その通りにしなければいけないような気持ちになってくる――。  実際に、ボクは座っていたベンチから、まるで立ち上がることが出来なくなってしまった。 そんなボクの、ズボンのファスナーに彼の指先が掛かり、下ろされていく。  彼の笑顔がボクの視界から消えるのと、下半身に快感が走るのとは、ほぼ、同時だった――。                  終
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!