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人形
マロンクリーム色の髪をとかし、蝶の刺繍が入った帽子を被せます。春の暖かな陽気を思い起こさせる、淡いピンク色のワンピースを整えてマリンは言いました。
「マリンお姉さんが名前を付けてあげましょう」
少し考えてからマリンは可愛らしい両手を顔の前でポンと叩きました。
「カノンちゃんにしましょう。マリンと響きが似てるでしょ」
一階からお母様が呼ぶ声が聞こえました。
「マリンちゃん。おやつの時間ですよ」
「はーい」
マリンは手に持った人形を投げ捨てると、レモンイエローのシフォンスカートをフワフワとなびかせ、一階へ降りていきました。
人形は髪一本、指一本動かさず心の中で呟きました。
「私なんて何の役にもたちゃしない」
その時人形の神様が応えました。
「そんなことはありませんよ。あなたはあの可愛らしい少女の遊び相手になっているではありませんか」
人形はまた、瞳の揺らぎも、唇を振るわせることもなく応えました。
「あぁ、神様。私は私だけの役目を全うしたいのです。誰かのためではなく、私だけの役目を全うしたいのです」
神様は問います。
「それは例えばどうする事ですか?」
人形は応えます。
「それは、それは叶うはずか無い願いです。私の私だけの私による自由」
人形は続けます。
「誰かのためのお洋服ではなく。誰かのためのお帽子では無く。私のためだけの、私の世界」
それを聞いて神様は何も応えなくなりました。そこには、ただただ時間が流れるばかりでした。
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