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「な、なな何…」
驚き過ぎて、言葉が続かない。涙が邪魔で、眩しい笑顔を直視出来ない。
「ん?今まで何してたか?聞きたい?」
ドンッ!!
体当たりしながら、逞しい首筋に抱きついた。
「バカバカバカ!」
「おい、そんな可愛い態度するのかよ?」
もう絶対放してやらない。痛くても重くても知らないから。
と、脳内で言い返したものの、嬉しさのあまり声が出ない。
!!
グッと腰に腕を巻き付け、密着させたんだ。
「会いたかった颯大」
この抱きついた状態では、身長差がある僕は見上げる体制になる。あああ、ポロポロ流れ落ちる涙が恥ずかしい。
「俺が居なくて淋しかったか?」
プイと顔をそむけた。
「知らない」
「颯大。俺と一緒に店やりたいって気持ち変わらないのか?」
その髪を触りながら言うの止めろよ。
「そうじゃなきゃ、とっくに出て行ってる」
ザンネン。強気でいたかったのに、声が震えてしまった。
「じゃ、今日からどうしたい?」
「もう何処にも行くな」
とうとう壁が背中に当たって、身動きが取れない。顎を掴まれてしまった。
「それだけ?」
熱い視線に焼かれてしまいそうだ。真剣に捉えた瞳に希望の光が射しているのは、僕の錯覚?
ああもう勘弁して。今までと同じ関係なら我慢出来ない。
一緒にいる間には勇気がなくて、言えなかった言葉を胸に、うちひしがれていたんだよ、ずっと。
「孝一郎が好き」
囁いた瞬間、柔らかな温もりが唇を塞いだ。
孝一郎が、大きな手のひらで水を掬うように僕の顔を抱えて、何度も何度もキスをしたんだ。
「俺も颯大が好き」
長い間、密着したまま交わす熱いくちづけに溺れていた。ずっと待っていた。ずっと焦がれていた。ずっとこうしたかった。
「もう離してやらね。覚悟しろよ颯大」
「それは僕のセリフだよ」
「可愛い」
指先で目に溜めた涙を拭いながら、寝室へと移動させられた。
「ええっ!?」
寝室が変貌してた。巨大なダブルベットの存在感がスゴい。僕好みの赴きある木目調で、クローゼットの扉や床板が統一されていた。
「どうなってるの?」
「ベットは窓から搬入したんだ」
「いやいやいや。そうじゃなくて工事をしたの?」
「ああ。颯大を驚かせたくて。バレないようストップしてただろ?」
もしかして、両親や零子は戻るのを知ってた?
困惑する僕を促して、ベットに座らせながら説明を続けた。
「先輩からの勧誘断れなくて、2年限定でトレーダーして、資金稼いだんだよ。勉強したり準備期間も必要だったし3年かかったがな」
「ト、トレーダー?何それ。何の資金だよ?」
頭が混乱してきた。
「だーかーらー!颯大と悠々自適に余生を暮らす資金じゃねーか」
「僕と?」
「俺と霧雨で働きたいって言っただろうが」
言った。確かに言った。でも資金って?
「あんま、サ店は儲からねえし、納得しない冷酷な兄貴が、『颯大を嫁にする条件は、貯金を3千万用意しろ』って、悪代官みたいな事ぬかしやがって」
嫁ぇえ!?僕、いちお男だけど。身代金みたいじゃん!
「颯大。今日から俺と一緒に暮らそう」
沸き上がる感情がものすごく大きくて。相変わらずポロポロ泣きながら頷いたんだ。
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