バウムクーヘンで午後のひとときを

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矢口の話によると駅で偶然スーツケースを持った多佳子に会ったらしい。 「あ、矢口くん。この事はあいつには内緒ね」 と何も聞いていないうちから向こうから話をしだした。 「それでね。これはあいつには内緒なんだけど…私、思うところがあってね…ドイツに行って参ります」と敬礼。 「どうしてまた?」とよく分からず問いただすと 「本場のバウムクーヘンが食べたくなった」としか答えないらしい。 「でも、何で、内緒なんだ?」「あ、別にそんなつもりもないけどね」 「渡部さん、意味が分からないよ」「いいの、たまには」 と言ったようだ。 「で、お前は俺の偵察に来たって訳か?」 「そんなんじゃないよ」「じゃあ何だ」「隆司一人でどうしてるかなぁって心配で」「それを偵察って言うんだよ!」 矢口は時計をわざとらしくみると「もう帰らねば」と言って急に立ち上がった。 「おい、多佳子は何処に…」 僕が追いかけようとすると矢口はバナナの皮を床に落として行く。 その手口が多佳子と同じでつい足を留めた。多分、矢口に『逃げる時バナナの皮を落として行って』と吹き込んだのだろう。 きっと多佳子は帰ってくる。 けどいつになるのだろうか。
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