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交差点
人ごみは嫌いだ。
渋谷のスクランブル交差点はいつも人で溢れている。それを見ていると僕は何故か不安になる。
上から眺めると、蜘蛛の子がね一斉に散らばってくみたいに見えると思わない。
それとも、戦利品を手に家へと向かう働き蟻達か・・・。
彼女はそう言って、交差点を見下ろしながら頬杖ついていた。
「アイスコーヒーとグレープフルーツジュースになります。」
僕は置かれたコーヒーの位置を直す。
店員は失礼しましたと頭を下げて、戻って行った。
「何か話して。」
交差点に向けていた視線は此方へと向けられた。
綺麗な瞳が僕を捉える。
「じゃあ・・・。」
僕は下を指差した。
「なに?」
「凄い人だろ。どこから来たのかわからない位に。信号が赤から変わると我先にと歩きだす。自分もその流れにのまれない様に目的地へ向けて足を進める。ぶつからない様に、いらぬ神経を磨り減らしながら。」
そこまで話して、コーヒーを一口喉に流し込んだ。
彼女は頬杖ついたまま、ジュースには口をつけずに目を細めて僕を見つめている。
「たまに、あるんだよ。気を付けてきた筈なのに、あっ、ぶつかる・・・そう思う時が。それまで視界に入っていなかった人が突然現れた感じで、目の前にいて、何とかそれをかわしたけど、振り向いたらいなかったとか。現れ方は様々だけどさ、虚ろな目をして交差点のど真ん中に立っていたり。かと言って誰も気にも留めない。不思議だよね、まるで見えていないみたいにさ。」
人なんでしょ?
彼女は不安そうに僕の顔を覗き見る。
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