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口の中にあった噛み砕かれた氷が一瞬で水になる。
夏も終わりという時期なのに、照りつける太陽は真夏のソレとなんら変わりないではないか。
私のやっている事はただの自己満足に過ぎない。偽善と言う者もいるだろうし、実際そうじゃないとは言いきれない。
元々面倒くさがりな性分なくせに、人間に限らずたとえ霊でも、困っている事に気づいてしまうと放っておけないのだから・・・自分でも厄介な人間と自覚しているつもりだ。
それにしても、平日にも関わらずここは人が多い。
皆、気づいていないだけで、どこかしこに霊は存在している。
特に人の多い所には沢山のエネルギーが溢れてる。そんな所には彼らも集まりやすい。
「お姉ちゃん。」
青信号で動き出す人々に紛れて、幼い女の子はボロボロのうさぎのぬいぐるみを抱えて、周りの人間には目もくれずこちらへ向かってくる。
明らかにぶつかる位置にいる人間をすり抜けて、目の前までやってくると私の服の裾をキュッと掴む。
「私、まほ。迷子なの。皆話しかけても無視するの。お姉ちゃんは見えてるでしょ、私のこと。」
嬉しそうに笑う顔に狡さや嘘はない。
私は彼女の目線に屈んだ。
周りの人間達は通り過ぎざま不思議そうに見ていく。
「私の名前は三日月一華。貴女のことを教えてくれる?」
人ごみは苦手。
厄介事を運んでくるから。
・・・でも、嫌いではない。
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