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「 こんにちは。売れない作家さん 」
「 こんにちは。胡散臭い保育士さん 」
笑い声が響くのは、県内に設立されている大学病院の中庭だ。季節は春で、暖かく気持ちの良い風が駆け抜ける。
売れない作家さんと呼ばれる30手前の男性は、髭が荒々しく生えており、髪も癖毛が目立つくらいに伸びたまま放置されている。名を五島竜司(ごしきりゅうじ)と言う。
そして明るいと言う言葉がよく似合い、胡散臭い保育士と呼ばれるこの女性、肩まである栗色の髪の毛を風が弄んでおり、名を清水花梨(しみずかりん)と言った。
「 今日はどんな話を聞かせてくれるの? 」
膝を抱えて男を覗き込む女は春が似合う、とても暖かい雰囲気を纏っていた。
「 そうだな。この間没になった短編でもいいか?俺の力不足のせいで、こいつが世の中に出ないままなのは可哀想なんだ。せめて聞いてやってくれ 」
自分の作品に子どもへの愛情と同じ愛を持ち、少し枯れた声で話す男は、秋が似合う独特の雰囲気を纏ってちた。
「 うん。聞かせてよ、その子を 」
週に一度、病院の中庭で話すこの時間が2人には心落ち着く時だった。
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