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「こういう展開になるとは思わなかった」
興梠が隣に並んだ。シャワーを使った後らしくほんのり石鹸の香りがする。寝不足で少しやつれた横顔を朝日にさらけ出した。綺麗な女性だと思った。
「私、ちゃんと口止めしたのよ。髙橋さんに」
「ああ、そうだったんだ。なんて言ったの?」
「……別に。文字通り、口止めしただけ」
言えない内容か? と言おうとして、掘り下げることでもないかと流した。おそらく興梠は同じ妖怪同士心配して口止めしてくれたのだろうが、髙橋の正義感が上回ったのだろう。
「悪かったね。きみには迷惑かけっぱなしだ」
「いいんです。私が好きでしてることだから」
「ありがとう。明日……もう今日か。髙橋さんのことよろしく頼む」
はい、と大人しく彼女は頷いた。真剣な瞳で、スカートの裾をつまんで少し左右に開いた。大袈裟に嘆息してみせる。
「昨日と同じ服……自慢の彼氏宅からの朝帰りとかだったらいいのに、妖怪の巣窟から出社ですよ。それだけが悲しいです」
「ははは! たしかにな。いいじゃないか同じでも。大体いつも似たような服着てるし」
「もう! 女の子にそういうこと言わない!」
怒った興梠はさっさとベランダから部屋へ引っ込み、鍵をかけた。家主なのに閉め出された哀れな俺を救ってくれたのは、カツラもつけずに起きてきた寝ぼけ顔の幕凪であった。
《集会・終》
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