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「で、は~」
佐藤が去ったあと、興梠は腰に手をあて、机に並べられた用紙と封筒を見下ろした。
「さっさとやっちゃいましょ」
「はーい」
佐藤は悪い人ではないが、いると仕事ぶりを見張られているようで気が詰まる。興梠と2人きりで僕は少しほっとしていた。
エアコンの風が程よく僕のうなじを撫でる。静かで、落ち着いた空間だ。最初こそボロい建物だと思ったけれど、徐々に慣れ始めていた。
「興梠さんって多趣味ですよね」
封筒を開く繊細かつ素早い手つきを眺めて、自分も用紙を折りたたむ。
「わかる?」興梠は顔も上げずに答えた。
「前に言ってたじゃないですか。ジムとか合コンとか。時間が足りないって」
「そうなの。私忙しいの」
「あはは。暇より全然いいですよね。ずっとここで働いてるんですか?」
「ううん。去年の今頃はまだ訓練校の生徒だったのよ。佐藤さんの前の人が、ちょうど穴が出た事務に私を推薦してくれてね。ラッキーって感じ?」
興梠が卒業し、事務員として就職することわずか1ヶ月で前任者は体調を崩した。入れ替わりに急遽佐藤が赴任してきたという。
「前任の──北畠って人なんだけど、その人は佐藤さんの指導者だったから。一緒に仕事する機会も多くてだから選ばれたのね」
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