4:留守番

2/13
80人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
「で、は~」  佐藤が去ったあと、興梠は腰に手をあて、机に並べられた用紙と封筒を見下ろした。 「さっさとやっちゃいましょ」 「はーい」  佐藤は悪い人ではないが、いると仕事ぶりを見張られているようで気が詰まる。興梠と2人きりで僕は少しほっとしていた。  エアコンの風が程よく僕のうなじを撫でる。静かで、落ち着いた空間だ。最初こそボロい建物だと思ったけれど、徐々に慣れ始めていた。 「興梠さんって多趣味ですよね」  封筒を開く繊細かつ素早い手つきを眺めて、自分も用紙を折りたたむ。 「わかる?」興梠は顔も上げずに答えた。 「前に言ってたじゃないですか。ジムとか合コンとか。時間が足りないって」 「そうなの。私忙しいの」 「あはは。暇より全然いいですよね。ずっとここで働いてるんですか?」 「ううん。去年の今頃はまだ訓練校の生徒だったのよ。佐藤さんの前の人が、ちょうど穴が出た事務に私を推薦してくれてね。ラッキーって感じ?」  興梠が卒業し、事務員として就職することわずか1ヶ月で前任者は体調を崩した。入れ替わりに急遽佐藤が赴任してきたという。 「前任の──北畠って人なんだけど、その人は佐藤さんの指導者だったから。一緒に仕事する機会も多くてだから選ばれたのね」
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!