5:悪魔事件

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 本部が血迷った。折り返しの電話を待つこと1時間。かけ直してきた相手は本部の部長だったが、俺は思わずアホなと言い返していた。それについて部長が不快感を催した気配はなかった。俺は後輩に楯突かれてあんなにも平静でいられなかったというのに。 「ここは教育訓練校の汚点になったとしても、元の不合格者は外すべきじゃないですか。幸い職業安定所のスタッフが確認中ということで保留にしておいてくれてます。普通そうでしょう。危険な前例は作るべきじゃない」  ミスをしたくせになにを、という声が頭をよぎる。俺の声だ。部長はのんびりとした態度で俺の抗議に応えた。 「もちろん2度としてはいけないことだ。しかし受講者を振り回しているのはこちらだし、来期の受講者数が見込みにくいという現実的な問題もある。失業率が回復しているようだからね」 「事実は、大事なんじゃないですか。1度してしまったら、緩くなりませんか」  事実を重んじる。俺の頭の片側をずっと髙橋が叩いている。そうだ、きみは正しかった。きみが正しくて、認めているということを伝えられなかった。
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