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自分の弱みをさらけ出すなら、誰も自分のことを知らない者がいい。言葉が通じない外国人、ひと目見ることも叶わないであろう石油王、宇宙人。悪魔でもいい。
「面接が苦手で、経歴は問題ないはずなのに今月だけで5社落とされてしまいました。このままではどんどん希望条件からも遠ざかってしまいます。なんのために働きたいのかわからなくなってきました」
「真面目な」
血を吐くように惨状を述べる青年に、相対する男は抑揚なく、感心した。
「その若さで5社落ちまくりとは、よほど面接が苦手とみえる。ご家族には相談したかな?」
「できないですよ。心配かけたくないので。こちらに伺ったのも家から遠いからです」
「ふむふむ、そうか。で、きみはどうしたい? 最終目標として、面接に上手くなりたいのか、理想の会社で働きたいのか」
「ええっと……」
「上手くなると言っても、面接なんてそう何度も使うスキルではなかろうよ。面接をする状況を作らなければ良いのだから。つまりきみに大事なのは骨を埋めるべき楽しい職場。そうじゃないか」
「はい──はい!」
青年の瞳に生気がみなぎった。男は髭のくっついた顎を広げてにやついた。
「オッケイ決まりだ。私の手にかかりゃ容易いものさ。とりあえず登録だけして貰うから、ここに署名と印鑑を頂けるかね」
勢いよく入会用紙を引き寄せた青年が、ペンを持ち上げた状態で動きを止めた。
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