序章 ~夢~

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序章 ~夢~

いつ頃だったか、瑠璃は同じ夢を繰り返して見るようになった。 見たくもない夢を、自分の意思が拒絶を強く思うたびに見るのだ。 あるのは机が整然と並び、まわりには数人の少女たちだけだった。みな一様に同じ服を身につけ、何事かを思い思いにまくしたてるかのように談笑している。 ―瑠璃が卒業したはずの中学校の一室だった。見る夢の中にはそれ以外にはなく、出てくる少女たちの顔も一切が変わりない。いつも同じ教室、いつも同じ夢。まくしたてる少女たちの談笑も、いつも同じだった。 瑠璃の耳に否が応でも聞こえてくる少女たちの声は、耳を庇いそうになる衝動にかられる。だがしかし、その声に聞き耳を立てる自分もいるのだ。 その少女たちの会話は、いまでは一字一句の全てを覚えてしまっている。昨日見たテレビ内容だったり、自分が熱を入れているアイドル、彼氏との近況など。しかし、そんな話題から始まった談笑も、最後にはあるモノに行き着く。そして、いままでかわされていたどんな話題よりも多くの笑いが起こり、盛り上がる。 その話題の中心は、数ヶ月前から『腐女子』と呼ばれるようになった一人の女子生徒。 この『腐女子』というあだ名。教室の中で使っている者たちは、世間一般に流布されている意味として使っているわけではない。文字通り、『腐った女子』としての意を込めて使っているのだ。そして、その名で呼ばれ始めてから女子生徒の学校生活は一変した。女子生徒が登校し自分の席に坐ると、隣の席の者がくんくんと周囲の臭いを嗅ぐ仕草をして、何か臭わない?と聞くと、別の一人が、ホントだ魚が腐った臭いがするー、と囃し立てる。そのやりとりに教室はどっと笑いが巻き起こるのだ。 他にも、女子生徒のノートや教科書が紛失するのは日常で、少女をゴミ箱と称して紙屑を放り投げ、身体に当たると声を上げて喜ぶ姿が教室の中を踊る。 そういったことが、この教室では当たり前のように繰り返さていた。瑠璃の夢はその頃の、ある一日。自分が人生の中で最も後悔し、最も忘れ去りたい一日を鮮明に再現する。
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