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第一章 ~奉臨転世~
またあの夢だ。
自分の身体が酷く汗ばんでいるのが分かる。あの夢の後に目覚めるといつもそうだ。身体を起こして一呼吸すると、軽い眩暈が頭を揺すった。これもいつものことだった。
枕許にある目覚まし時計に眼をやると、起きる時間には少々早いが二度寝ができるほどの余裕もない。第一、あの夢の後に二度寝などする気も起きなかった。
ベッドからそろりと抜け出すと、身体が粘りつくような疲労感を訴えた。それでも無理に身体を動かし、着ているパジャマを脱いで私服に着替えて下に降りた。リビングに足を進めるとキッチンでは母が慣れた手つきで朝食の準備をしていた。
「……おはよう」
そんな母に声をかけた。心なしか、声は掠れている。
「あら、もう起きたの?まだ早いわよ」
母は手を休めることなく答える。
「うん、目が覚めちゃって」
返事をするのも億劫だったが、あの夢は母のせいではないと思うとそうもいかない。軽く笑って瑠璃は答えた。
「朝ごはんもうすぐできるから。お父さん、もう準備始めてるのよ。食べ終わったら手伝ってあげてちょうだい」
「もう?お父さんこそ早いね」
今度は手を止め、母は瑠璃を振り返りその顔に満面の笑みをうかべる。
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