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第一章
人でも殺しそうな剣呑な瞳で、霧谷春人は、スマートフォンを睨みつけている。
放課後独特の活気ある教室で、不穏なオーラーを漂わせる春人を、クラスメイトたちは遠巻きに見ている。
(どれにすっかなー……)
着崩したブレザーの制服に、ゆるくまとめた金髪、そして緑のピアス。
男版猫娘のような三白眼がキラリと光る。
(やっぱこっちか!)
先ほどから春人が見ていたのは、チャンリオという可愛いキャラクターグッズを販売している会社のサイトだ。
最近、スマートフォンの充電器の調子が悪くなったので、国民的人気のネコちゃんか、ピンクのウサギちゃんがいいか、真剣に考えていたのだ。
(やっぱり今回はピンメロのほーかなー。見れば見るほど可愛いからなぁ。こんな充電器だったら、充電するたびに幸せを感じてしまうな)
隠そうとしても、どうしても顔がゆるんでしまう。一人でニヤニヤしていたら不気味なやつだと思われるのはわかっているが止められない。
実は春人は、ヤンキーのような外見をしているが、かわいいものにめっぽうめがなく、チャンリオのキャラクターも昔から大好きなのだ。しかし健全な高二男子で、しかもこんな派手な外見の自分がかわいいもの好きだなんてとても言えなくて、周りには黙っている。
最近仲良くなった夏巳にも、誰にも秘密にしていた。たぶん、墓場まで持っていくと思う。
「霧谷。ごめん、待たせたな」
ぽんと肩をたたかれて、飛び上がりそうになった。あわててスマートフォンの画面を消した。
同じクラスの楠夏巳が、優しく目を細めて微笑んでいる。
「先生がなかなかはなしてくれなくって。退屈だっただろ? 俺から誘ったのにごめんな」
夏巳は、優等生なのに誰にでも態度を変えないやつで、クラスで完全に浮いている春人とも仲良くしてくれる。よく出来た奴だと思う。それに何よりイケメンで、女子人気も高い。
そんないい奴がなぜ、こんな自分をあれこれ気にかけてくれるのか、よくわからない。
そんな春人の疑問も意に介さず、夏巳は机の上のカバンを抱えた。
「そろそろ、行こうか。今日、うち、泊まりにくる約束だっただろ?」
「あ、……うん。そうだったな」
あわててスマートフォンをズボンのポケットにねじこんで、春人も立ち上がる。明日は土曜日で学校も休みなので、今日は夜通し、夏巳の家で映画を見る約束をしていたのだ。
廊下を歩きながら、夏巳はうれしそうにこちらを見あげてきた。身長は、春人の方が少しだけ高い。
「夕飯は、母さんが用意してくれてるから。霧谷は何か嫌いなものあった?」
「……いや。別に。何でも食べられる」
「そっか。あ、うち弟もいるんだ。あいつもお客さん来るの好きだから喜ぶよ」
「へぇ……。弟もイケメンなんだろーな」
「んー、でもあいつまだ、中三だからな」
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