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排気ガスは糞だ!
「ぷへ~、むっちゃくっせー!おまけに音でか!毎度のことながら何してけつかるねん、家の主人は・・・」
夕暮れ時、吾輩の主人の車がマフラーから大きな排気音を立て夥しい排気ガスをまき散らしながらバックして来て吾輩の犬小屋の前に停まった。
主人が仕事から帰って来たのだ。
車から降りると、必ず主人は吾輩の頭を撫でながら只今ポラと言うために吾輩の所へやって来る。
そんな時、吾輩はしっぽを振って喜びを表す。しかし心の中では頼むから犬小屋の位置を変えろやと不平不満を垂れている。
翌朝も主人が出勤前、吾輩の餌を持って来てくれるから吾輩はしっぽを振って喜びを表してやるのだが、心の中では後生だから犬小屋の位置を変えておくんなはれと泣き言を吐くように不平不満を垂れ面従腹背することになるのだ。
何せ、冬の時期は家を出る前、暖機運転する所為でその間、ずっと排気ガスに晒され、おまけに馬鹿げたことに必要ないのに空ぶかししたりするからだ。
しかし、主人は罪悪を感じていない。それどころかマフラーの音をいい音だと思って楽しんでいる。
主人のマニアックな事にはフェラーリのビデオを観賞しながら吾輩には不快な甲高いエキゾーストノートを素晴らしいと言って絶賛するのだ。
他人の趣味についてとやかく言うのはいかがなものかと思うが、実に迷惑な趣味なのであって態々純正品から社外品に替えてマフラーの音をでかくするのだから吾輩が不平不満を抱くのは尤もなことだ。
況して吾輩の聴覚は人間の4倍優れていて嗅覚に至っては人間の何千倍も優れているのだから排気音と排気ガスがもたらす公害を痛い程、甚だしく感じるし、ともすれば、そのお陰で吾輩は健康を害するし、主人は地球温暖化に加担しているのに違いないし、現に吾輩は夏場、熱中症にかかる事があるから猶更だ。
全く人間のやることは愚かしい!
何が万物の霊長だ!
奢るのも大概にしろ!
しかし、主人の娘のメグちゃんは美少女で可愛いから許せるって言うか、大好きだ。
マフラーをオシャレに首に巻いて吾輩を散歩に連れてってくれるし~、そんなマフラーなら吾輩は大歓迎で頼むから吾輩の首にもマフラー巻いてくれやと切に願っている。
毛で覆われてるのにかよ!って突っ込まれそうだけど、ペアルックで散歩したいもん。 犬用のマフラーって無いのかなあ・・・スカーフ巻いてる奴は時々見かけるけど・・・
そう思ってたらメグちゃんがマフラーを吾輩の首に巻いてくれた。
而もメグちゃんとお揃いのノルディック柄で色はラベンダーだ。
吾輩はパグだからファニーフェイスをもっとファニーにして喜ぶと、「うひゃあ、ポラちゃん、めっちゃかわいい!」ってメグちゃんが嬉しがりながら褒めてくれたから吾輩は散歩中の犬とすれ違うたびに有頂天になった。
メグちゃんは可愛いだけでなく賢いから畦道や河川敷など自然とふんだんに触れ合えるところを散歩させてくれるからありがたい。
その点、主人はアホだから近所の人間と挨拶したり世間話したりしながら町中を散歩させるもんだから吾輩は不満たらたらになるのだが、メグちゃんと草花の香りや土の匂いや小鳥の囀りやおいしい空気を堪能して犬小屋に帰ってからもマフラーを気に入って巻いたままでいた。
すると、マイカーで帰って来た主人に頭を撫でられながら言われた。
「メグに巻いてもらったんだな。似合ってるぞ」
吾輩はうれしくなるどころか、「てめえの車の排気ガスの所為で汚れちゃったじゃねえかよ!折角のメグちゃんのプレゼントに何してけつかるねん!」とむっちゃ文句を垂れたくなったが、勿論、言えなかった。
この時程、犬であることを歯がゆく思ったことはない。
そこで自棄糞になって思いっきり、「ワン!」って吠えてやったら、やっこさん、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いてやんの。
それでざまあ見ろとは思ったものの吾輩の憤慨は収まらなかった。
全く排気ガスは何によらず糞だ!
百害あって一利なし。
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