マフラー地獄

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     それから    健一はアパートに引き返すと、女を連れだし、アルファロメオでラブホテルへ向かった。最期位、リッチに時を過ごしたかったのだ。  到着すると、縦列駐車エリアを通り抜け、空いているガレージエリアに車を停めた。すると、そのまま部屋へ入れるシステムだからメニューパネルの料金ボタンを選んで押して即座にチェックインできる。  健一は半日足らずか・・・と溜息交じりに思ったものの料金はチェックアウトする時に自動精算機で払うシステムだから金がなくても思い切り贅沢ができるぜ!と色めき立って宿泊ボタンを押して女と共にチェックインした。  チェックインするまで女と普通におしゃべりを楽しめたし、チェックインしてからも至れり尽くせりの部屋の中で高級料理や高級ワインを注文して、それらを味わいながら大画面液晶テレビでVODの映画を観賞したり、LIVEDAMを使ってカラオケをしたり、大理石を多用したバスルームでスキンシップしたりして楽しんだ後、ベッドインと相成った。  シャンデリアの淡い光に照らされ、ドレープのかかったゴージャスなベッドで睦言を交わす内、健一はこんなに仲良くなれたんだし、とても一夜限りでは自分たちの関係が終わるはずはないと思うようになった。それで気持ちが尋常でなく高揚して熱くなってディープキスをしてから本格的に交わる段になると、興奮のボルテージはうなぎ上りに上がり、身も心もヒートアップするばかりだった。  そうして健一は女と夜もすがら性交を楽しみ、エクスタシーに達した後、ほろ酔いの心地よさも手伝って知らぬ間に眠りにつくのだった。とこしえの安らぎに浸るように・・・  ところが、明け方、つまり昨日の明け方から丸一日経った時だった。耳を聾する程の爆音でたたき起こされた健一は、いきなり何かちんちんに熱したもので首を絞めつけられた。  徒でさえ辺りに充満する排気ガスに含有する温室効果ガスの所為で茹だるように暑くなる上、ガス中毒になって呼吸困難になるのに熱い物で首を絞められるのだから汗を干からびる位、かきながら息が詰まって咳込んで気が遠くなる。おまけに排気ガスの煙で曇って目が眩まされ、首を絞める者を確かめようにも確かめられない。  それでも目が慣れて来て見分けがつくようになると、車のマフラーの化け物みたいなのが排気ガスをまき散らし爆音を立てながら熱し過ぎたおしぼりのようなマフラーで首を絞めているのが分かった。  それで健一は絶望に打ちのめされながら全てを悟った。俺は悪魔に魂を奪われ、マフラー地獄に堕ちたのだと。  
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