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側にあるマンホールの蓋を見ながら七月は独り言でもあるかのように静かに言った。
なんとなく、誰の顔も見れなかった。
「私――
昔からあるものが見えるの。
この話、先生にも話したことはないんだけど。
私には、影だけの人間が見えるの」
「影だけの人間?」
そう訊き返してきたのも三村だった。
三橋は黙って訊いている。
「ぼんやりとしてるけど、人の影のように見える。
時折、見かけるそれが、私には恐ろしくて。
それがよく現れる通りは通らないようにしてるんだけど。
夕べ、此処でまたあの影を見たの。
でも、影は私に気づいて、逃げ出した。
そんなことは初めてだったわ」
いつも逃げるのは私の方なのに――
そう七月は言った。
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