5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
気になる真面目なあの子
学校で一番の関心事は、もちろん「席替え」だ。
今まで、隣の隣っていうのはあったけど、ジャスト「となり」って言うのはなかった。
だけど、今日の席替えで、ついに憧れの神藤絵里花(しんどう・えりか)さんの隣の席をゲットすることができたんだ。
だけど結局、僕は彼女に話し掛けることはできなかった。左目でちらっと見るのが、精いっぱい。
長い黒髪を後ろに束ねて、背筋をピンと伸ばした上品な姿が、より一層、話しかけにくくしていた。
彼女はいつも、まっすぐに黒板を見て、几帳面な字で一生懸命、書き写していた。
特に、担任で英語の大澤先生の授業の時はうなずきながら、強い筆圧でアルファベットを書きなぐっていた。
だけど、彼女の隣にいられる、というだけで、僕は「しあわせ」だった。
ただ、彼女は大澤先生の事が好きなんだと思うと、少し焼きもちを妬いてしまう自分が、恥ずかしかった。
ところが。
ある日を境に、彼女は休みがちになった。
一週間に2日も、3日も休む日が増えた。
だから僕は、思い切って話し掛けることにした。
「あ、あのさ。最近どこか、調子悪いの?」
「え?」
彼女は、初めて僕の方をまっすぐ見てくれた。
「どこも悪くないわ。悪くないけど、でも。私には時間が」
そう言い掛けて、目を伏せてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!