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私にとってアユムはいい人。
それ以上でもなく、それ以下でもない。
好きかと言われれば好きだけど、トキメキはない。
ずっと一緒にいたい訳ではないのだけれど、彼の人生を遠くから眺めていたい。
そう思わせる所が、彼の魅力かもしれない。
突然だけれど、私に今足りないものは心の拠り所だと思っている。そんなもの要らないって思っていた時期もあるし、逆に強く求めてた時期もあったけれど、その幾度となく繰り返す波の中で、今は欲しい時期が来ている気がする。だから今の私のガードは甘く、漠然と何かを求めてた。
今思うと彼もまた、その選別の中にいたんだと思う。
彼とのプレイが終わって思うこと、それは彼が優しい人だという事。SEXが上手いかといわれると、下手な方だと思う。でも、この人は私を悪いようにはしない人なのだろうな、と思った。
ベッドで一息ついた私は横たわりながら天井を眺める彼の顔をまじまじと見ていた。
「俺の顔に何かついてる?」
そう恥ずかしそうな顔をしながら視線を合わせる。
「ううん、意外と整った顔してますね」
「…ありがとう」
そそくさと眼鏡をかける彼。
そんな女性に慣れてない姿を見ていると、少しからからかいたいという感情が沸き起こった。
「まだ時間ありますから、タバコでも吸ってください」
「じゃあ、一緒に吸いましょう」
そう彼は言ってくれた。
バスタオルを巻き、二人でソファーに隣同士で座りながらタバコを吸う。
何かを喋るわけでもなく、ゆっくり時間が過ぎていく。とくに気まずい空気が流れている訳でもなく、意外と心地が良かった。
私がなぜ彼に心地よさを感じたのか、それはこの人が礼儀と建前が無いからなのではないかと今は思う。
「ニコさんはどんな男性がタイプですか?」
彼は突然口を開いた。
私は何と言おうか少し迷う。なぜなら、マナーのイイお客なら次もまた呼んでほしいからだ。彼には恋心を抱かせるような受け答えをするべきか、友達のような受け答えをするべきなのだろうか。
「んー、メガネをかけてて、黒髪な、細い人かな」
「…細くはないけど、黒髪だしメガネかけてるけど。それって、俺のことタイプってこと?」
そう言って、ニコニコしてる。まんざらでもない顔だった。こんなにも喜ぶ彼を見て、馬鹿な奴だなと思う。でも、不快ではなかった。こんなに真っ直ぐに喜ぶ彼が可愛いなと少し思ってしまった。
「わりとタイプかな」
私は嘘は言わなかった。本当にメガネ男子が好きだし、黒髪が好きなのだ。
別に彼に特別な感情は無い。ただわりとタイプってだけ。 わざわざ好意的な発言をする必要もなかったのかなと少し後悔もしたけれど、言ったところでどうなる訳でもないだろうと思っていた。
すると彼の口から突拍子もない言葉が返ってきた。
「…じゃあ、俺たち付き合っちゃおうか?」
「ええ、本当にそんな軽いノリで付き合っちゃっていいんですか?」
私は少し戸惑った。まさか、こんなことを言ってくる人だとは思わなかったからだ。
「冗談です」
彼はそう言って服を着始めた。
彼の何かを知ってるわけではないのだけれど、冗談ぽく伝わらない人だなと思ったのを今も覚えている。
それが私たちの始まりだった。
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