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さとみさんの家は、本当に図書館から歩いて10分だった。
大通りを横切り、住宅街に入ってちょっとのところに、落ち着いた茶色い壁の8階建て、セキュリティの行き届いた綺麗なマンションだった。
「うわぁ・・・」
「ここの6階よ。割と綺麗な方だと思うわ」
「綺麗なんてもんじゃないです。すごく素敵です」
カードをかざして、暗証番号を打ち込むとドアが開く仕組みだった。
エレベーターで6階にあがって、廊下を突き当たったところのドアにカードキーを差し込んだ。
「さ、入って?ちょっと散らかってるけど、ごめんね?」
「お・・・おじゃまします・・・」
中に入るとフローリングの廊下からリビングが見えた。その向こうにバルコニーがあって、カーテンから燦燦と光が差し込んでいた。
「うわぁ・・・」
さとみさんが、リビングのレースカーテンを開けると、目の前に公園の緑が飛び込んできた。
「良いでしょ?この眺めを見ていたくて、この部屋にしたのよ」
「・・・素敵・・・です・・・」
「あ、キッチン見る?」
「はい」
「ルームシェアするなら、寝室はもちろん別だけど、リビングとキッチンは共同で使うことになるから、見ておいた方がいいわよね?あと、シャワールームも」
「はい」
なんでか分からないけど、寝室、という響きにちょっとドキドキした。
キッチンとシャワールームを見せてもらった。そのあと、使ってないほうの部屋を見せてもらった。ちょうどワンルームくらいの広さがあった。
「住んでもらうなら、こっちの部屋があなたの寝室になるわ。今は私の荷物置き場になっちゃってるけど。実は、私、あんまり掃除とか得意じゃないのよね。散らかってるでしょ?こんな私で良ければ一緒に住んでもらえないかしら?」
「は、はい」
つい、返事をしてしまった。
「え?ほんと?いや、あの、良いのよ?もう少し考えても?別に見たからって、住まなきゃいけないってことは無いのよ?」
さとみさんは、なんだか上気した顔で、あたふたし始めた。
私は逆に、冷静に考えて、これ以上の条件は無いと思った。
歩きながら聞いた金額や公共料金の分割提案も、ものすごくリーズナブルだし、何といっても、職場に近いのが魅力だった。
唯一の難点は・・・私の性格かなぁ・・・
「あの・・・本当に私で良いんですか?」
「え?もちろん、いいわよ?」
「ほんとにほんとに良いんですか?多分、私、めんどくさい女ですよ?」
「綾ちゃん、めんどくさいの?今まで話ししている感じでは、そんな感じしないけど?」
「いえ、あの、昔、高校の同級生に「めんどくさい女―」って言われたことがあって・・・私自身は、どういうのがめんどくさいと言われているのか分かってないんですけど」
「綾ちゃんは、ただ、周りに気を使いすぎてるだけよ?もっと楽に生きれば、普通の可愛い女性じゃない」
そんなことを言われたのは初めてだった。私は恥ずかしくなって
「あ、ありがとうございます・・・」というのが精いっぱいだった。
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