第1章 仕立て屋と薬屋

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第1章 仕立て屋と薬屋

 いくども視界がどぎれる。いけない、と、思って頭を振る。作業はちっとも進まない。気は焦るのに、それを裏切るように体は眠りたがる。  時計を見れば約束のウシミツドキまであと一時間半。頼まれたドレスはまだ肝心の工程の途中である。こまかな飾りつけは機械(ミシン)ではなく手を使わないと出来ない。細いリボンやレース、そしてビーズをひとつひとつ縫いつけていく。何しろ小さいドレスなのだ。  目がずきずきと痛む。凝らした眼球が異常な熱を持っているのがわかる。しきりに目薬を差すが、あまり効果は感じない。焼け石に水といったところだ。手の動きが鈍くなって、またぞろ瞼が落ちる。  朦朧とした意識では、正確な場所に針を刺せない。思いきり指を突き刺して我に返る。あわててティッシュの箱を探ると、小気味良く横から差し出されたので、素早く抜き取って血を拭った。それから絆創膏を三枚重ねて巻きつける。この手間が惜しいが、注文品を汚すわけにはいかない。
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