妖精の仕立て屋

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「どうもありがとうございます。あの、あのお金は……、」  そこまで云って、まほろは自分が財布を持ってきていないことに気が附いた。すると男はそれを察したのか、 「いえいえ、お代は結構。そのかわり、月光樹の花の露を頂戴(ちょうだい)したい。もちろん、満月の晩のものをね」  まほろは目を瞬かせた。「月光樹?」 「ええ。それで佳い薬が出来るんですよ。上客の注文でね、どうしても必要で」  男はまほろの手から、預けていた提燈(ちょうしん)を掬い取るようにした。男の手に渡ると、提燈の火の色が、(あか)から青へと変化(へんげ)した。 「でも、持っていないんです。その月光樹がどんなものかも識らなくて」  正直にまほろが答えると、男はふふと笑った。 「何事も焦りは禁物。手に入れられた時で結構ですよ。つけにしておきます」  手に入る保証もないのに、本当にそれで良いのかとまほろは迷ったが、今は一刻も早く家に帰って、ドレスを仕上げなければならない。
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