26人が本棚に入れています
本棚に追加
「終わったわよ。」
「あ、お疲れ様です。」
一時間半後、数人の学生たちに紛れ、いくが講堂の出入口から姿を現した。彼の視線は錦司本人から錦司の手元にあるライトノベルの方へと移った。
「その本は・・・。」
「あ、これですか? これ、僕が高校生の頃から読んでいるお気に入りのラノベなんです。」
「そう。どんな話なの? あらすじ、聞かせて。」
「あ、はい。」
いくに言われ、錦司はライトノベルのあらすじを順を追って話し始めた。
ライトノベルのタイトルは、「探偵少女♡サク」という。
「探偵少女♡サク」の主人公――園田 桜子(そのだ さくらこ)は高校1年生の少女。桜子は普通の高校生として生活していたが、ある日のひょんなことからその日常が変わる。
桜子の父親は名探偵で、彼女の推理力の高さは父親の影響を受けていた。その能力を古典の教師兼探偵の男性―ー鈴木 湯秋(すずき ゆあき)に見いだされ、彼とコンビを組んで学園でたびたび起きる事件を解決していく話だ。また、湯秋はただの教師兼探偵の男性ではなく、異世界の人間であった。要は学園×ミステリー×ファンタジーの物語である。
「・・・これ、どちらかというと女性向けの話じゃない?」
「そうですか?」
錦司から「探偵少女♡サク」のあらすじの説明を受けた後、いくは言った。
確かに、このライトノベルの表紙に描かれている桜子と湯秋のコンビは女性向け漫画にありがちな綺麗な絵柄ではあるが、話の内容はそこまで言うほどでもないと錦司は思っていた。
「ええ。だって名前にハートがついてるし・・・。」
「先輩、さてはあまり二次元に詳しくないとか?」
「うっ・・・!」
錦司に言われたことは図星のようだった。
「・・・そうね。確かに私はアニメとかライトノベルとか漫画とか・・・その辺はあまり詳しくないわ。でも、普段から小説なら読んでいるからライトノベルには興味があるかも。」
いくはライトノベルの表紙を見つめながら言った。
「本当ですか?!・・・では、今度お教え・・・って、今もう14時35分だ! 僕、次講義あったんだ。急がないと!」
錦司はライトノベルの話の続きをしようと思ったが、ふと腕時計に目をやったところ、次の講義まであと5分の時間になっていた。彼は次の講義が行われる講堂へと急いだ。
次の講義――4時限目は錦司だけ講義があり、いくは講義はない。
「待って! 私、あなたを待たなきゃいけないから!」
背後でいくが言う声が聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!