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「どうしたの? ぼうっとして。」
「へ? いや、何でもありません。」
考え事をしていた錦司はいくに顔を覗き込まれて彼から後ずさった。
「・・・そう。ところで、どうする? 先にどのアトラクションに行く?」
いくはそれ以上錦司の顔を覗き込むのをやめる。そして、二人並んでだだっ広い遊園地の敷地内を歩きだす。この日はもうじき夏がやってくることを知らせてくるような暑さだった。(その前に来月には梅雨があるが。)錦司といくも含めて、遊園地の客たちは暑さ対策をしていた。
「そうですね・・・メリーゴーランドとかは夜の方がいいですし・・・うーん、ごめんなさい。やっぱり先輩が決めてください。」
「え? 私が決めていいの? じゃあ・・・ジェットコースターはどうかしら?」
「ああ・・・いいですよ。」
「・・・もしかして、乗り気じゃない感じ?」
「へっ? いや、そんなことありません。」
錦司のその言葉は本心だった。目の前の先輩の乗りたいアトラクションであれば、自分は何も文句を言うつもりはないからだ。錦司は、自分が大人しめの性格だから、このような時もおちついた返事をしたことで誤解をされたのだと、彼は思っていた。
「ふふ。よかった。じゃあ、行きましょう。」
錦司はいくに腕をひかれる。掴まれている錦司の腕が、心のドキドキによって震えそうになった。
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「うぅ・・・。」
「大丈夫?」
それから数十分後、ジェットコースターに乗り終わったときのことだった。錦司が体調を崩してしまったのだ。
今、二人はジェットコースターの近くのベンチに座っている。
「いや、これくらい・・・。」
「顔色が悪いわよ。暫く乗り物には乗らない方がいいわ。」
いくの言う通り、錦司の顔色は本当に正常ではなく、真っ青だった。
「・・・ごめんなさい、僕のせいで・・・。」
錦司がそういくに謝った瞬間、彼の意識は遠のき、その身体は地面に崩れ落ちていった。
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