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実は、錦司が病院に運ばれてから意識を取り戻したのは昼ごはんの時間を越えて、午後に入ってからだったそうだ。その話を聞かされた錦司は、いくに改めて申し訳なくなり、謝罪をした。いくは「いいのよ。」と言い、許してくれる。
“いく先輩には本当に迷惑をかけてしまった。”
錦司はそんな罪悪感を独り抱いていた。
今は午後の3時半頃とのことらしい。
「ねえ、錦司くん。」
「はい。」
いくに改めて名を呼ばれた錦司は、思わずかしこまった返事をしてしまう。そんな錦司にいくが微笑む。その刹那、いくの長く美しいクリーム色に近いさらさらした金髪が揺れた。それが窓ガラスに差し込む日光に当たり、光る。
錦司はそのいくの微笑みと髪に見惚れていた。
「さっき、看護師さんに熱中症って言われていたわよね? 錦司くんはいつから暑さに弱くなったの?」
割とシリアスな内容の話だった。だが、錦司はそこのところは言及せず、答えることにした。
「そうですね…幼稚園児くらいの頃には既に熱中症になりやすくなっていたと思います。」
錦司は静かに続ける。
「昔は今よりももっと熱中症で倒れる頻度が高かったです。」
そして、重い口を開いたのだった。悲しみだらけの過去を語るために。
今なら、この目の前の美しい先輩に自分の辛い過去を話してもいい気がしたから。
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