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それから一時間半後、講義の終わりを告げるチャイムが鳴った数秒後にフランス語演習の講義は終了した。
「ねぇ、天使くん。」
教科書やルーズリーフ(またはノート)を片付けたり、近くに座っている仲間と話しながら講義の後片付けをする学生たちの声で講堂が騒ついている中、いくが錦司に話しかけてきた。
「何でしょうか?」
錦司が問いかけると、いくは瞳を伏せれば彼の耳元に唇を寄せた。
「え……?」
「…今日から私のボディーガードになってくれる? 用事がない時だけでいいから、私のそばにいて、私のことを守って欲しいの。最近、さっきみたいに私のこと、しつこく軟派してくる人がいて…。」
いくは錦司の耳元で囁いたあと、そこから己の唇を離し、錦司と向き合うような感じだが俯きがちの姿勢になる。
錦司はしばらくそんな彼の様子を見つめながら口を開いた。
「…いいですよ。」
「本当に?」
「ええ。僕、困っている人のことを放っておけない主義ですから。」
「…ありがとう。」
いくは、安心と感謝でいっぱいの気持ちになったような表情を浮かべて、錦司を見つめていた。
錦司としては、この初恋の目の前の美しい先輩の正体が男性だと分かった今でも、彼への想いは変わらなかった。
だから、そんな彼が傷ついているのを見るのは、錦司からしては心が痛かったのだった。錦司は彼を救いたいと思ったのだ。
それで、錦司はいくの願いを聞き入れた。
こうして、この日から錦司はいくのボディーガードを勤めることになった。
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