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「ここ…でしたよね?」
「ええ、ありがとう。」
翌朝、錦司はいくを彼が参加する講義が行われる講堂まで送った。
ボディーガードといっても、錦司といくは学科が違うので、外国語や共通科目、一般教養の科目以外であれば受ける講義が変わってくるし、何より大学となると人それぞれ時間が違うので、四六時中ずっと彼のそばにいるわけにはいかない。
いくは錦司に微笑めば、講堂の中の学生たちの人だかりにとけていった。
錦司はそれを見送れば、講義の開始を告げるチャイムが鳴る前に自分の受ける講義の行われる講堂へと急いだ。
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1時間半後、講義の終わりを告げるチャイムが鳴った。
講義を終えた錦司は荷物を持ってすぐさまいくのいる講堂へ駆け出した。
講堂からたくさんの学生たちが出てくる中、錦司は講堂の中に入っていくを探し始めたが、彼がすぐにこちらに手を振ってくれたので、すぐに見つかった。
「…大丈夫でしたか?」
「ええ、今日は今のところ一度も絡まれていないわ。」
いくは錦司の姿を目にして彼に声をかけられた瞬間、安心したような表情を見せた。
「それなら良かった…しかし、まだ油断はできませんね。」
「そうね…。」
いくが少し瞳を伏せる。その時に瞳にかぶさる長い睫毛が美しいと、錦司は感じていた。
とても男性とは思えない。つけまつげを装着しているのだろうか?
“いやいや、確かにこの人ーー先輩は僕の惚れた相手だけど! 今は見惚れてる時じゃないっ!”
そう思い、我に返った錦司は口を開く。
「先輩、次は2限目ですが…先輩は確か講義は無かったですよね。僕も今日の2限目は講義は無くて…その…よろしければご一緒に大学の近くのカフェでお茶しませんか?」
錦司はそう、俯いて目の前の想い人を誘った。
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