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「ふふ。そうよ。ほんわかしてるって言われたことない?」
いくが優しく微笑む。
その笑みに、錦司はまたしても胸をときめかせた。
「そんな…ありませんよ。僕は自分のことをそういうキャラだと思ったことありませんし、多分思われたこともないと思います。だって僕は・・・。」
「?」
錦司がそこまで話すと、いくがきょとんとした表情で錦司を見つめた。
「いえ、何でもありません。」
錦司は思い出したくない過去のことを口走りそうになり、それ以上話すのをやめた。自分自身、口にしたくないしあの事を目の前のこの美しい先輩に知られたくない。
「・・・そう。言いたくないことなら無理に言わなくてもいいわ。」
「ありがとうございます。」
”この先輩は綺麗なだけじゃなくて優しいんだ・・・。”
錦司はしみじみと思ったのだった。
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それから数時間後、大学の講義は三時限目を迎えていた。
あの後、錦司といくはカフェを後にすると学生食堂で昼食を摂ったあと、三時限目はいくだけ講義があるので、錦司はいくを彼の履修している講義が行われる講堂まで送ると、その講堂の入口付近にあるベンチでライトノベルを読んでいた。
そのライトノベルは中学生~大学生ぐらいの世代に大人気のファンタジー小説で、錦司が高校生の頃からスタートしたシリーズものの小説である。今彼が読んでいるのは最新巻だ。地獄だった高校時代、錦司はアニメや漫画やライトノベルに支えられて生きてきた。とはいえ、彼は今でもそれらを愛しているが。
お気に入りのライトノベルを読む時間は本当に楽しくて、頁(ページ)をめくる手が止まらなかった。
彼は講義終了のチャイムが鳴るまで時を忘れてそのライトノベルを読んでいた。
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