青井と葵

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青井と葵

その日、私は物凄く気が立っていた。 いや、 正確に言えば、私のイライラに拍車がかかったのは、 隣の席の青井孝太郎(こいつ)のせい。 ――― 今朝の朝練で、8月に行われる全日本吹奏楽コンクール県大会の出場メンバーが、正式に発表された。 浅倉高等学校(ウチの学校)の吹奏楽部は、県内でも一、二を争う強豪で、ここ3年は連続で県予選を突破して、全国大会に出場している。 強豪校ともなれば、当然部員数も多い。 市内外から、中学でバリバリ吹奏楽やってました!という経験者ばかりが集まっていて、 三学年合わせると、その数は150名を優に越える。 そういう私、日生(ひなせ)(あおい)も、もちろん中学から続けているうちの一人。 150㎝の小柄な私にとっては、「楽器に運ばれてるみたい」と笑われるほどに大きな金管楽器・チューバ担当だ。 巨大な金属の塊を必死に抱えて、初めてブォ、と間抜けな音を鳴らした中1の春から、もう5年になる。 って、そんな前置きは、今はどうでもいい。 とにもかくにも ……私は、選ばれなかった。 チューバのパートメンバーは全部で8人。 そのうち、選ばれるのは5人。 当然のごとく、実力も実績もある3年生の3人は確定。 残りは2枠。2年生は3人。 そう…… 2年生で唯一私だけが、メンバー落ちしてしまった。
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