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「今の時期、苺のビニールハウスは生育のための照明は必要ありません。苗は山の上ですし。しかしながら、おばあさんは認知症のために、照明がついていないと不安なのか、何度阻止しても、習慣で付けようとするんです」 「え!おばあちゃんが火を点けているの?静君」  私の大きな声を、静君が口元に指で当て、しっと制した。 「そうですよ!そもそも、照明を付けたとしても、どうして電気なのに火が付くのですか」  お嫁さんは、あわてて納屋の戸を閉めた。暗い室内の奥には、トラクターが置いてあった。 「恐らくご主人は、この季節は照明の電源を切っているのでしょうね。必要ないですし。だから、おばさんがスイッチをいれても点灯しません。それでもおばあさんは、明りをつけたいという衝動にかられているのです。ですから、ろうそくに火をつけようとして、ボヤ騒ぎをおこしているのです」 「お言葉ですが。確かに義母は、ろうそくを持ち出しています。が、力が弱くライターも使えませんし、マッチも持っていません。どうやって火を起しているのか、貴方は知っているのですか」 「これ、です」  静君の手のひらに黒い石があった。 「これは……」 「火打ち石です」 「まさか。こんな石で火は起せないでしょう」 「やってみましょうか?」  納屋の床には、藁が敷いてあった。静君はそこで石を打った。暗い室内に火花が飛んだ。
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