1 勃発

4/5
前へ
/253ページ
次へ
「この三冊は同じ本から出来ていたし。清美さんから本が送られてきた時期と重なります。本を所有していて清美さんと知り合いの可能性のある義兄さんが、何らかの理由があって伝説地で事件を起こしているのではないか、って静君は言っていました」 「なるほど。君は堀を捜すため、恭平君は清美の事を調査するために、静御前の歴史調査をしていたわけか」 「あの。資産って何ですか……」 「だから!君が知る必要は無い。しかし今回、組織が要求したという事は、まだ未発見のものがあるようだな」  北条さんはずり落ちた眼鏡を直した。一瞬静まり返った中、片岡刑事が重い口を開いた。 「雪乃ちゃん。先日襲われた後、君と恭平君は、この本で何か気が付いた事があるんじゃないかい?」  彼は顔を上げた。真剣な目。いつものような汗はかいていなかった。 「だから恭平君はさらわれたのだ、と僕は思うんだよ」 「確かに気が付いた事はあります。でも、それは……」 「何でもいい。雪乃ちゃん。これは大事な事なんだ」 「『静の書』は、『源氏伝説』から静御前の伝説だけを抜粋したものですが、北方領土の伝説が加えられていました」 「何だと?私が見た限りそういう記述は無いが」  北条さんはあわててページを捲っているので、私は隣に座った。七ページ目を示し、解説をした。 「なるほど、ここか。しかし、異国とは。これではこちらも先回りができないな……」  考え込んでいる北条さんの横顔。それよりも私は静君が心配だ。たぶん、静君も組織の人間から同じように尋問されているのだろうか。でも白状しても、北方領土では誰も資産を手に入れられない。静君ならきっと……。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

318人が本棚に入れています
本棚に追加