2 雨の中を

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 私がこの一ノ谷大学に進学した理由は、行方不明の堀さんの母校であり、彼を捜すためだ。そして彼は歴史研究部というサークルに入っていた。現在の一ノ谷大学の校舎は新しく、旧校舎『屋島(やしま)館』は学生運動など過激な思想の人達が占拠した過去があり、現在は封鎖されている。  どうして取り壊さないのかは大学の七不思議の一つだ。亡霊が出たとか、学生運動の人がまだ住んでいるとか、鬼門の方角を封鎖して大学を守っていると信じている人もいる。だけど私は寮の代表の優子さんから訊いた、建物に大量のアスベストが使用されており、解体にえらい費用が掛かるため、うかつに壊せない、という理由が一番しっくりきていた。  実はこの屋島館には、義兄さんが在籍した歴史研究部の部室が残っている。今、私はその部屋に行こうとしていた。捕まる心配があって躊躇していたけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。静君が誘拐されたのは私のせいかもしれないのだ。さて。どうしようか。たぶん、防犯システムが入っているから忍び込んだ途端、警備員が来ると思うし。 ……部室は二階。梯子で窓から入るか。  こんな大雨の中、私の周囲には誰もいない。ためしに近くにあった石を放り投げ、窓を割ってみた。ガチャーンと大きく響くけど、十五分経っても何も起きなかった。もしかして、そういうシステムは入っていないのかな。警備員の目視のパトロールだけなのかもしれない。もしも誰かが駆け付けても、逃げ切る自信はあるし。今日は忍び込みに最高の大雨。迷彩柄の合羽を着こみ、顔を隠した私は、管理室から失敬した梯子で二階の部室の窓を破り侵入した。
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