2 雨の中を

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 ずぶ濡れで部屋に入り、懐中電灯の明かりで壁を見上げると歴代の部員の写真が飾ってあった。ちょっと怖い。 「あった……」  この中に、堀さんがいる集合写真を見つけた。仲間と一緒に弁慶の手割り石の前で撮った写真。当時のファッションだろうか、肩パット入りの派手なシャツがまぶしい。お姉ちゃんがみたら笑うだろう……。そんな事を思いながら、私は濡れた手をカーテンで拭き、曲がっていた額に触れた途端、裏側から紙が落ちて来た。 「?なんだろう」  三つ折りの色あせた紙。濡れないように優しく広げると、どうやら、部員の名簿のようだ。名前が一覧になっている。 「これって」  平成六年歴史研究部名簿に、静清美という名前を見つけた。  嵐の中。部室から写真と名簿を拝借してきた私は合羽を脱ぎ棄て、下に着用していたレインコート姿に変身し、さらにコンビニで売っている傘を差した。大学内にも防犯カメラがあるので、どこにでもいる学生の振りをした。そのまま講義を受けず、寮に舞い戻り、部屋で一人考えていた。 ……この静清美の住所は、やはり静君の邸だ。という事は、静清美さんと義兄さんは同じ部で、知り合いだったという事だ。 「でも、どうしようかな……」  この名簿には清美さんの名前以外たくさんあるけど、堀という名前は無い。でも写真には写っているから、この十三人の内のいずれかが義兄さんの本名のはずだ。うーん。どうしても気になる名前が一つだけある。でもな。こんなに都合がいいものなのかな。下の名が同じで、(みなもと)智春さんて人がいる。しかも。実家らしき住所が載っている。
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