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「食べ物で身を清めるそうです。自給自足による無農薬野菜を食べるんですよ」
「話しを聞いていると身体に良さそうだけど」
せっかくなので私はストレッチを始めた。
「雪乃先輩。問題は水です。身を清める修業と称して生薬配合の水『聖水』を大量に飲ませるんです。この成分だとかなりの興奮状態になりますね。これの飲みすぎにより死者が発生したため、殺人行為を指示したとみなされた教祖の平は逮捕され、今は刑務所です」
「このレッドに清美さんも入っていたの?」
「そうです」
だから静君のご両親は、清美さんの過去を静君に話さなかったんだな。
「逮捕後に施設を調べても資産が二千万しかありませんでした。教祖に訊ねても、静清美が持ち逃げした、としか情報が無いままです。その後発見された清美は持病が悪化し、入院し意識混濁のまま二十一歳で死去しました。これにより資産の在り処は、永遠に分からなくなってしまったのです」
「ね、その資産ってどのくらいなの」
「バブル期ですから数億です。でも現金に限りませんよ。金塊、宝石、株証券。信者から集めたものだから美術品かもしれません」
「それを清美さんが一人で隠したわけか」
「いえ。全部を一人では無理です。お付きの女性も一緒で。彼女は別件で逮捕されましたが、三年前に出所しています」
「また三年前……」
「ん?先輩。携帯、鳴っていますよ」
「非通知だ。もしもし」
『あ。雪乃か?俺だけど』
「……静君?」
心臓が勝手にマラソンを始めた。受話器の向こうの声は我儘王子の声だった。
第六話 完
第七話 影(あと)ぞ恋(こい)しき
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「静君なの?」
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