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そういうと静君は、持参したCDをオーディオに入れた。音楽を聞きながら、新四号線を北へ進んだ。
やがて、栃木県に入った時。寝ていた静君が、うーんと背伸びをした。そして、急に私の左腿に、彼は手を置いた。
「雪乃。もうひとつ。質問していいか」
今度は、耳元に甘い声で、ささやく彼。え。どうしたらいいの。
「な、なんでしょうか」
ガチガチに緊張の私。運転しているのに。
「どうして源氏の伝説を調べているんだ?雪乃の調査は誰かが研究したものを再調査しているんだろう。無意味じゃないか」
「……別にいいじゃないですか」
「それに北海道の田舎からわざわざ埼玉にやってきた理由。熱に浮かれている間、あまりにも暇なので、俺は考え仮説を立てた」
「そうですか」
「お前は誰かの軌跡を追っているんだ。それはずばり、片思いの相手だ」
置いた右手で私の腿を、ポンっと叩いた。
「ええと。窓を閉めますか、静君?」
「図星か」
私はちら、と静君をみた。窓に肘を持たれ、気難しい顔をして私を見ていた。どうしたものか。
「あ。ほら、また白い煙よ」
「ったく。誤魔化そうとして」
「よく見てよ」
私の目指す大川奉行の自宅。そこから白煙がでていた。
「おばあさん!」
「ああ。あんた達かい」
大川さんちのおばあさんが、自宅の前に立っていた。おばあさんは無表情に静君の顔をじっとみた。
「……兄さん。元気になったみたいだな」
「そっちこそです」
この煙は火事ではなく、おばあさんが枯れ葉を燃やしていたようだった。なあんだ。
たき火に歩み寄った静君はしゃがみこみ、じっと炎をみつめた。
「たき火は、禁止なんじゃないですか」
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