2

12/17
前へ
/253ページ
次へ
 そういうと静君は、持参したCDをオーディオに入れた。音楽を聞きながら、新四号線を北へ進んだ。 やがて、栃木県に入った時。寝ていた静君が、うーんと背伸びをした。そして、急に私の左腿に、彼は手を置いた。 「雪乃。もうひとつ。質問していいか」  今度は、耳元に甘い声で、ささやく彼。え。どうしたらいいの。 「な、なんでしょうか」  ガチガチに緊張の私。運転しているのに。 「どうして源氏の伝説を調べているんだ?雪乃の調査は誰かが研究したものを再調査しているんだろう。無意味じゃないか」 「……別にいいじゃないですか」 「それに北海道の田舎からわざわざ埼玉にやってきた理由。熱に浮かれている間、あまりにも暇なので、俺は考え仮説を立てた」 「そうですか」 「お前は誰かの軌跡を追っているんだ。それはずばり、片思いの相手だ」  置いた右手で私の腿を、ポンっと叩いた。 「ええと。窓を閉めますか、静君?」 「図星か」  私はちら、と静君をみた。窓に肘を持たれ、気難しい顔をして私を見ていた。どうしたものか。 「あ。ほら、また白い煙よ」 「ったく。誤魔化そうとして」 「よく見てよ」  私の目指す大川奉行の自宅。そこから白煙がでていた。 「おばあさん!」 「ああ。あんた達かい」  大川さんちのおばあさんが、自宅の前に立っていた。おばあさんは無表情に静君の顔をじっとみた。 「……兄さん。元気になったみたいだな」 「そっちこそです」  この煙は火事ではなく、おばあさんが枯れ葉を燃やしていたようだった。なあんだ。 たき火に歩み寄った静君はしゃがみこみ、じっと炎をみつめた。 「たき火は、禁止なんじゃないですか」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

320人が本棚に入れています
本棚に追加