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「ここはうちの庭だから、だいじだ」
おばあさんは、気にせず木をくべていた。すると、玄関からお嫁さんがでてきた。
「あら。声がしたと思ったら、あの時の」
「その節は御世話になりました」
私は頭を下げた。
「いいえ。こちらこそ、お連れの方、元気になったみたいですね」
お嫁さんの笑顔に、さすがの静君もそっと会釈をした。でも、これで終わらなかった。
「少し、お話いいですか」
彼のセリフに、私は嫌な予感がした。お嫁さんは戸惑った様子だ。静君は、懐から金色の扇子を取り出した。もしかして、何かやらかすつもり?
「このままだと、本当に放火事件になりますよ。今の内に手を打たないと」
彼は優雅に、扇でたき火に風を送っている。
「なんのことでしょう?」
「おばあさんの病気の件です」
「なんですって……」
「静君、いきなり失礼な事いわないで」
彼はゆっくりと、おばあさんへ振り返った。
「この方は善意で行っていますが。これはいずれ、事件になります」
「待って下さい!……こんな所で困ります。こちらへ来て下さい」
お嫁さんは、静君の腕を引っ張って、納屋の方へ行った。私は後を追った。
「……もう隠せるもんじゃないですよ」
「貴方は何も知らないから…」
お嫁さんは、大きく息を吐いた。そして周囲をキョロキョロと見渡した。
「一体どうしろっていうですか。貴方達」
「今はまだ不審火で済んでいますが、いずれ放火で逮捕されます」
「逮捕?ですか」
驚くお嫁さんに対し、静君は金色の扇子で顔をゆったりと扇いだ。
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