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「ああ。それに立ち上がった時、おばあさんは石を落としたんだ。お前が得意になってエンジンを掛けていた時だ。俺はそれが気になったんで、一個拝借したんだ」
得意になっては余計でしょ!でも暑いのだろうか。隣の彼は、扇子で扇ぎだした。もしかして、また熱が出てきたのかしら。
「あの火打ち石って、どこにでもあるの」
「ない。あっても普通の石と見分けはつかないだろうな。ところでさ、雪乃?」
顔が急接近。ドキ、とするじゃないですか。
「お前も熱があるんじゃないか」
彼は私の額に自分の額をくっつけてきた。思わず私は息を止めて、目を瞑った。
「……無い、か」
いきなりの事で、声も出ない私だった。
「では。そろそろお前の秘密。きかせてもらおうか」
「な、なんのこと」
義兄さんへ片思いをしているかな。行きの車でもしつこかったし。でも話すつもりはないですけど。
「お前の住んでいる女子寮だ。なぜあそこの建物には、『肉』と書いてある?女子寮に『肉』とはどういう事なんだ?いい加減、教えろ!」
「あ。電車がきましたよ。静君」
「……いつか必ず、この謎。俺が解いて見せよう」
山の日の午後。帰りの電車の中で、リュックサックを持つ人をみつけた。どこの山を登ってきたのだろうか。気になるけれど、静君は次回調査予定の静御前伝説地について、解説をしてくれている。その前に、バイクの試乗に行こうと言いだした。
窓の外に広がる水田には雲が映る。梅雨が明けたら、ここに暑い夏が来る。私は、おとといからの過酷なハンバーグ製造と、今日やっと車を返した安堵感から、急に眠気に陥った。
「静君。ごめんね……」
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