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前略
この物語は、伝承や創作にて活躍し、時として恐怖の象徴、時として社会風刺そのもの、時として愛玩の対象と姿を変えてみせた人ならざる登場人物、いわゆる「妖怪」や「モンスター」、「人外」等々と呼称される存在についてフォーカスしたものである。
厳密に言うなればその存在自体は現在も科学的に否定されたわけではなく、されど科学的に存在を証明することができなかった世間一般が、名目として存在し得ないものとして取り扱った流れが根付き、今に至っているだけのこと。
僕らが住んでいる世界はそれを「科学で証明できない絶妙なバランス」と定め、共に生活しながらも互いに干渉することはなく、不便に感じることも億劫に思うこともなく平穏な時代を長らく過ごした。
しかしある日。
世界を震撼させたとある歴史的事件を境に、僕たちを取り巻く文化や環境は大きな転換を見せた。
浮世が大きく傾く原因となったのは、その「科学で証明できない絶妙なバランス」を管理していた唯一無二の機関が経済不況のあおりを受けて「何かしらのすごい装置」の維持活動が困難であると発表し、1819年の末に電源を落としたことに始まる。
……と、いった具合に「僕」という人ならざる存在が、どうして日本の学生と同等な学生生活を送っているかという経緯を説明するにはもう少し時間がかかりそうだし、そういった時代背景はこの先あまり覚えていなくても必要がないだろう。
大事なのは、僕が人の形をとりながら顔面とよばれる要素だけが抜け落ちたのっぺらぼうと区分される生物群で、一人の学徒として学生生活を謳歌する権利を享受している真っただ中、似た境遇のクラスメイト達と【人外学校の生徒】として学舎を同じくしている。その中の1ページ。
いうなればこの物語には、「登場人物」という単語は不要かもしれない。
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