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「みんな帰ったみたいだ」
「そう……。ありがとう」
放課後。もぬけの殻と化した教室に、チェスの駒のように僕と女子生徒だけが配置された切り抜き。市松に織りなすスクールパーケットが盤面のように思えた。
石髪さんはどちらかといえば目立たない部類のクラスメイトだ。
薄緑色の地毛はドレッドヘアーのように一本一本が太く、目線を隠すためか鼻の頂点まで覆われていた。ビニールホースが頭頂部から垂れているように見えなくもないが、その髪の毛の表面は、爬虫類に見られる湿り気のある鱗が光沢を纏っていた。
きめ細かいひし形模様が、髪のなびきに連動して夕暮れの陽光を反射する。彼女の髪を伝う電飾がゆっくりと明滅しているようにも見えた。
背丈は、女子としてはかなり高い。
僕は念のために教室の扉を両側とも閉めると、席に座る石髪さんの前に立った。
「で、相談ってのは?」
「あのね、野平くん……」
石髪さんの座高は僕の身長とほぼ同じ高さで、見えもしない目線は学習机の板上にあった。声のトーンはかなり落ち込んでいるが、石髪さんは元々よりこういった喋り方だった気もする。
「私、好きな人がいるんだけど……。こんなナリだから人と目を合わせるのが難しくて」
「あー……、なるほど」
合点がついた。それはもちろん、彼女が大柄であることを指してではない。
言葉の意図が、早計ながらも予測できてしまったのだ。
本校の生徒は一部を除いてほぼ100%が「人外」と定義される存在で占められる。住民票にはもれなくそう特記されている。
人の顔のパーツを持たない僕も、髪ではなく蛇が頭皮から生えている彼女もまた同様なのだ。
「みんな、石になっちゃうからさ」
石髪さんは、メデューサと呼ばれる生物群に属している。
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