あるある:1

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 突き抜ける夜空がそこにあった。熱を帯びた視線でこちらを見返す石髪さんの双眸(そうぼう)は黒く大きく、そのまま吸い込まれてしまいそうな純度を誇った。  このとき僕は、学校に入学して以来初めて、石髪さんの顔をまじまじと見たと気づく。  かつて世界を魅了した美貌という血統は伊達ではない。  その顔には決心と恥じらいを化合させて発生した乙女心とやらが映り込み、何も言わずともその心境を伝える目力が僕の心臓を掴んで離さなかった。頬を紅潮させて、潤んだ瞳を揺らしながら続ける。 「私、あなたのことを思うと、心臓の高鳴りが止まらないの」  証拠にと言わんばかりに、彼女の髪が小刻みに弾けた。随分と古典的な言葉ではあるが、蓋をしきれない淡い思い、止めどない直情なんてものが石髪さんのセリフには溢れかえっていた。  お互いを凝視して10秒ほどが経過。  僕は彼女にとって練習用のハリボテでしかなく、それこそ学生服を着たマネキン人形といったところなのだろう。だが、こうもうわべとはいえ、特別な感情をぶつけられるという行為に慣れているわけでもなかった。  気が付けば僕も彼女の熱に浮かされ、見つめあうだけの時間がひどく高尚で官能的な性質を併せ持つのだな、と実感するとは思いにもよらなかった。
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