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閏年には墓を建ててはいけないそうだ。
四年に一度しかめぐってこないこの年の六月に妻を亡くし、そんな迷信があることを俺は初めて知った。
「だからね、幸雄。今年はお墓を切らないで、来年建てて納骨になさいな」
姉からそんな風に諭され、俺はうやむやに頷いた。
正直今はそんなことを考えられる気分じゃなかった。
墓って誰のだ? 納骨って何の話だ?
それが正直な気持ちだったから――。
実際問題、俺は妻が逝ってしまったということを、受け入れられずにいるのだ。
「なぁ、咲子。お前、別にずっとここに居てもいいんじゃねぇか?」
気が付くと、仏壇前で妻の遺骨にそんなことを語りかけていたりする。
事実、俺はそう思っていたりするのだ。
暗く冷たい墓石の下にこいつを閉じ込めるなんてこと、出来るわけがない、と。
そんな俺の気持ちを隠すのに、閏年の迷信というのは本当に都合が良かった。
閏年だから墓は建てられない。だから俺は、やむを得ず来年までこいつを家に置いてやるんだ。
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