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 そう。彼は熊本の人だった。  福岡の人じゃない。  いくら九州に近いと言っても、熊本からではそうそう何度も足を運べる距離じゃなかったはずだ。それなのに彼はちょくちょく遊びに来てくれた。  そんなことを思い出して懐かしくなる。  彼は気障(きざ)で、見た目もちょっぴりホストっぽい人だった。  車をとっても大事にする人だった。  熊本弁(なま)りの独特のイントネーションで発される標準語もどきの言葉が温かくて大好きだった。 「で、その彼がどうしたの?」  幸福な数年前にタイムスリップしていた私の心は、明美の、先を急かすような声音によって連れ戻される。 「その彼とね、一度温泉に行ったことがあるの」  いつもは彼が私の住む山口まで遊びに来てくれていたけれど、一度だけ彼の住む熊本に連れて行ってもらったことがある。  お宿は彼の祖母のお家。  突然押しかけたにも関わらず、彼のおばあちゃんはとても親切にもてなしてくれた。 「折角来たんだから色々案内してもらいなさいね」  ちらりと孫を見て笑うおばあちゃんに、私も微笑みながらうなずいた。
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