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「大学生の頃にね、私がすっごく好きだった人、覚えてる?」
「……確か、チャットがきっかけで仲良くなったっていう、彼?」
その辺の事情には余り詳しくない則子が曖昧な調子でそう言うと
「隆志くん!」
さすが一緒にインターネットに夢中になった仲。明美が鼻の穴を膨らませて得意げに懐かしい名を挙げた。
悔しいけれど、今でもその名を聞いただけでちょっぴり心がときめいてしまう。そんな人の名を。
「そう、彼」
彼は九州の人だった。
私達の大学は本州の隅っこにあって、九州は目と鼻の先。
電車で数駅揺られれば、そこはもう福岡県。
そんな環境にいたからか、当時の私は月に二度くらいのペースで彼と会うようになっていた。
「確か熊本の人だっけ?」
明美に負けじと則子も必死だ。記憶の糸を手繰り寄せるようにそう言うと、どう? 合ってるでしょ? そんな目で私を見つめてくる。
「うん」
カラン……。
再び氷が音を立てたのと、私が答えたのとは殆ど同時だった。
その音に弾かれたように私はコーラをひとくち口に含む。
氷が溶けて薄まったコーラは、炭酸までもどこかに追いやられてしまったような、そんな薄ら惚けた味がした。
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