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水と油な二人はとりあえず置いておいて、僕は面白そうに言い合いを見ている黒須の方を向く。
「それにしても、転校生くんは、どうしてこんなところに?」
副会長に案内されて理事長のとこに向かったはずだけど。
「それが、おじ――じゃなくって、理事長の部屋にまず挨拶に行ったんだけど、その後寮に向かう途中、道に迷ったみたいでさ」
あははと、お気楽そうに笑う。木の上にいたのは、上から辺りの様子を見ようと思ったかららしい。でもそのお陰で助かったよ。
「改めてヨロシク。僕、黒須サガラ」
伸ばしてくる右手を握る。
「七瀬サトウです。君のルームメイトだよ。桜凛館学園にようこそ」
「ルームメイト? マジかよ……」
僕の挨拶に黒須は頭を抱える。
「早速バレたって、叔父さんに怒られる……」
なるほど。せっかく変装してるのに、こんな本性即バレしていたら意味ないものね。でも今叔父さんとか言ってたよね。それもバレたら不味いんじゃないのかな。仮に今バレてなくとも、その調子だといずれ色々バレるのは時間の問題だったと思うよ。
「誰にも言わないよ、ね? 緋色、飛鳥先輩」
可笑しくなって、くすりと笑うと、言い合いが一段落着いたのか、隣に立つ緋色と飛鳥も頷いた。
「そっか、ありがとう!」
てらいなく笑う黒須に、僕たちも笑顔になる。これが王道くんパワーというヤツかな。見ていて惹き込まれるようだ。そもそもここにいるの皆攻略対象者だし、惹かれるものがあっても仕方ないのかもしれない。あ、僕の場合恋愛的な意味じゃないからね。
「そうだ、迷ったとか言ってたね、僕も帰るし寮まで一緒に行こうか?」
なんのかんのあったせいか、結局午後の授業はサボってしまった。もう直ぐ終礼の鐘が鳴る時間だ。葉月にカバンを持って帰って貰うようにメールする。僕の課題丸写ししたんだし、それくらいいいよね。
「うん、それは有難いけど……」
歯切れの悪い黒須の言葉に首を傾げた。しばらくして盛大なお腹の鳴る音がする。
「その前にどっか、メシ、食べるとこない?」
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